手続き
マンションの一室を、宿にできるのか
区分所有のマンションでは、工事ができるかどうかより先に、管理規約で宿泊事業そのものが認められているかを確認する必要があります。
この記事の要点
- マンションの一室を宿にできるかは、工事の可否より先に管理規約で決まる
- 国土交通省の標準管理規約には、住宅宿泊事業を可能とする規定例と禁止する規定例の両方が示されている
- 規約に記載が無い場合でも、総会で禁止に改正されることがあるため、議事録まで確認する
- 専有部分の中でも、給排水管・サッシ・バルコニーは共用部分として扱われることが多く、手を入れられない

マンションは物件価格が抑えられ、立地の良い場所を選びやすいという利点があります。一方で、戸建てには無い制約があります。建物を自分ひとりで決められないという点です。
管理規約が、最初の関門
2018年の住宅宿泊事業法の施行に合わせて、国土交通省の標準管理規約には、住宅宿泊事業を可能とする規定例と、禁止する規定例の両方が示されました。これを受けて、多くのマンションがどちらかを規約に書き入れています。まずは手元の規約を読んでください。
記載が無いときほど慎重に
規約に何も書かれていない場合、可能とも禁止とも言い切れません。総会で禁止に改正される可能性があるため、直近の総会議事録と、管理組合の方針を確認しておいてください。
専有部分と共用部分の線引き
自分の部屋の中であっても、手を入れられない部分があります。どこまでが専有部分かは規約で定められていますが、一般に次のものは共用部分として扱われます。
| 部位 | 一般的な扱い |
|---|---|
| 室内の壁紙・床の仕上げ | 専有部分。変更できることが多い |
| 玄関ドア | 外側は共用部分。内側のみ塗装可という規約が多い |
| 窓サッシ・ガラス | 共用部分。交換は管理組合の工事として行われる |
| バルコニー | 共用部分の専用使用。物を置く範囲が制限される |
| 給排水の縦管 | 共用部分。横引き管は専有部分とされることが多い |
水回りの位置を変えたい場合、この縦管の位置が動かせないことが制約になります。間取りの自由度は、戸建てより小さいと考えてください。
規約の条件に合う工事の範囲、ご相談ください。
この物件でできることを聞く工事そのものにも手続きがある
- ・管理組合への工事の届出と承認(着工の何日前までか、規約に定めがある)
- ・工事ができる曜日と時間帯の制限
- ・共用部分の養生と、エレベーターの使用ルール
- ・床材の遮音等級の指定(L-45 など、規約で数値が定められていることがある)
- ・近隣住戸への事前の挨拶
床の遮音等級は見落とされやすい項目です。規約で指定されている場合、その等級を満たす材料しか使えません。無垢材の床にしたいという希望が、ここで通らないことがあります。
宿として使うときの、近隣への影響
規約で認められていても、運営の仕方で苦情が出れば、総会で禁止に向かう力が働きます。廊下での会話、深夜の出入り、ごみの出し方、共用部分での喫煙。これらは工事では解決しないため、運営のルールと掲示で対応することになります。
- ・玄関に多言語の注意書きを貼れる場所を作っておく
- ・室内の吸音を上げて、話し声が廊下へ漏れにくくする
- ・ごみの保管場所を室内に確保する
管理組合への説明で、聞かれること
規約で認められている場合でも、工事の届出を出すと管理組合から質問が来ます。あらかじめ答えを用意しておくと、承認までの時間が短くなります。
- ・宿泊者はどこから出入りし、鍵をどう受け渡すのか
- ・騒音やごみについて、どのようなルールを設けるのか
- ・緊急時に誰が何分で駆けつけられるのか
- ・工事の期間と、共用部分を使う時間帯
- ・近隣住戸への説明を、いつ誰が行うのか
この五つに具体的に答えられるかどうかで、印象が大きく変わります。とくに三つ目は、住民がもっとも気にする点です。
規約の条件に合う工事の範囲、ご相談ください。
この物件でできることを聞く工事の段取りにも、建物の制約が出る
戸建てと違い、資材の搬入と廃材の搬出にエレベーターを使います。使用できる時間帯や養生の方法が決められている建物では、一日に運べる量が限られ、工期がその分延びます。
| 制約 | 工事への影響 |
|---|---|
| 作業できる曜日・時間の指定 | 職人の稼働日数が減り、工期が延びる |
| エレベーターの使用時間の制限 | 搬入出に日数がかかる |
| 駐車スペースが確保できない | 資材の積み下ろしに人手が要る |
| ユニットバスの搬入経路が狭い | 選べる機種が限られる |
見積もりを取るときは、これらの条件を先に伝えてください。条件を知らずに出た金額は、着工後に動きます。
マンションが向く宿、向かない宿
制約が多い一方で、マンションには戸建てに無い強みがあります。駅から近い立地を選びやすく、建物の管理と修繕を組合が担うため、運営中の手間が小さく済みます。どんな宿を作りたいかによって、向き不向きが分かれます。
| 狙う滞在 | マンションとの相性 |
|---|---|
| 出張・一人旅・短期滞在 | 立地の良さがそのまま強みになる |
| 家族連れの連泊 | 定員と水回りの数で制約を受けやすい |
| 体験を売りにする宿 | サウナ・露天風呂・焚き火は原則として難しい |
| 長期滞在・暮らすような滞在 | 生活動線が整っており相性が良い |
体験価値で単価を上げる方向は取りにくいため、立地と清潔感、そして使い勝手で選ばれる宿を目指すことになります。投資の配分も、その前提で組み立ててください。
鍵の受け渡しを、どこで行うか
戸建てと違い、共用の玄関を通る動線になります。キーボックスを外壁に取り付けたい場合、それが共用部分への設置にあたるため、管理組合の承認が必要になることがほとんどです。設置できない建物では、別の方法を用意しておく必要があります。
- ・玄関ドアの内側で完結する電子錠を使う
- ・近隣の提携先に鍵を預ける
- ・室内側に宅配ボックス状の受け渡し場所を作る
購入する前に、確認しておくこと
物件を取得したあとで規約を読んで断念する例が少なくありません。契約の前に、次の書類を見せてもらってください。売主か仲介会社に依頼すれば取り寄せられます。
- ・管理規約と使用細則の全文(宿泊事業に関する条項の有無)
- ・直近数年分の総会議事録(規約改正の動きがないか)
- ・長期修繕計画と修繕積立金の状況(大規模修繕の時期)
- ・管理組合の管理費・積立金の滞納状況
- ・専有部分の範囲を示す図面(配管の位置)
四つ目と三つ目は宿泊事業とは直接関係しませんが、大規模修繕の期間は足場が架かり、外観の写真が使えなくなります。営業への影響があるため、時期を把握しておいてください。
よくいただくご質問
規約で禁止されていますが、総会で変えられますか
規約の変更は特別多数の賛成が必要で、容易ではありません。反対する住民がいる状態で事業を始めても運営が難しくなるため、別の物件を検討するほうが現実的です。
住宅宿泊事業は禁止でも、旅館業なら可能ですか
規約の書き方によります。住宅宿泊事業のみを禁止している場合と、宿泊事業全般を禁じている場合があります。加えて、旅館業の許可は用途地域の制限も受けるため、両方を確認してください。
水回りの位置は、どこまで動かせますか
排水は勾配で流すため、縦管から離れるほど床を上げる必要があります。天井高が下がる、段差ができるといった影響が出るため、動かせる距離には限りがあります。現地で配管の位置を確認してからの判断になります。
分譲マンションと賃貸マンションで、確認することは違いますか
賃貸の場合は貸主の承諾が加わります。分譲を購入して貸し出す場合は管理規約、借りて運営する場合は管理規約と賃貸借契約の両方を確認することになります。
この記事のまとめ
- ・工事の検討より先に、管理規約で宿泊事業が認められているかを確認する
- ・規約に記載が無い場合は、総会議事録と管理組合の方針まで見る
- ・サッシ・玄関ドア・縦管・バルコニーは共用部分で、手を入れられないことが多い
- ・床の遮音等級が規約で指定されていると、使える材料が絞られる
- ・苦情が続けば規約が改正されうるため、運営のルールも設計に含める
制約の中で、できることを組み立てます
マンションは手を入れられる範囲が限られる分、どこに配分するかで差が出ます。規約の内容と物件の条件をお聞かせいただければ、その中で効く工事をお伝えできます。
制度や費用の情報は2026.09.24時点のものです。 実際の可否は物件の条件によって変わりますので、個別にご確認ください。



